コラム No.010 『フラガール』を見て経済学を学ぼう
- ズバ抜けて素晴らしい映画『フラガール』 -
"To You Sweetheart,ALOHA"
私が学生時代耳になじんでいたアンディ・ウィリアムスの甘い名唱である。
映画『フラガール』の後半クライマックスへの重要な一里塚。町と人々そして教え子たちに愛憎入り混じった失望を感じて夜汽車で町を去ろうとするフラダンスの先生、平山まどか(松雪泰子)を必死に引きとめようと集まったフラガール全員が、反対側のホームから車中の先生にハンドモーションで思いを伝えるシーンに、この曲が流れる。
"愛しい人にアロハ 愛しいあなたにアロハ 心の底からアロハ" こみ上げてくる快い感動に身をまかせるより他はない。
この映画は昭和40年、戦後日本の高度成長が加速しようとしている時、閉山に追い込まれてゆく常磐炭鉱が舞台となっている。ヤマの危機を救うためにハワイアンセンターを立ち上げ、それに「一山一家」の精神で応募した少女達の青春物語である。
とはいってもその奥行きはとても深い。李相日(り・さんいる)監督は傑作をつくった。
蒼井優は『ハチミツとクローバー』の内面の勝った演技と一味違う、少女から女への季節をダイナミックに演じ切る。大器だ。
松雪泰子は人に言えない過去を抱えたフラの先生、平山まどかを陰影濃く演じている。スローモーションで撮られたダンスシーンは圧巻。
そして富司純子。私の世代では「緋牡丹博徒のお竜」の藤純子である。還暦の彼女なんて見たくはなかったが、蒼井優演じる紀美子の母親役で眉間(みけん)に立じわを作って啖呵(たんか)を切る。一心不乱に踊りの練習をする娘の姿に和解し立上がるのである。
![]() | 映画『フラガール』 オフィシャルサイト |
そして静ちゃん。この映画が放つダイナミズムの一つは静ちゃん(小百合役)の快演に負うと思う。とりわけ最後のキャラバン公演の直前、楽屋に落盤事故の知らせが届くシーン。
小百合の父親が犠牲になったのだ。帰ろうとする先生に「躍らせてくんちぇ!」と訴える。
この映画は南海キャンディーズの静ちゃんを山崎静代という女優にさせた。
- 経済学で深まる映画の魅力 -
この『フラガール』という映画は、もしあなたが「経済学」を学んでいればもっともっとその面白さが加わるに相違ない。
まず「経済」とは「経世済民」から来た言葉で「世の中を調整して人民の生活のでこぼこをなくする」意味だから、映画のテーマそのものである。そう「幸福の条件」を考えさせる。
「高度経済成長」は「エネルギー革命」を伴ったから、静ちゃんの炭鉱は閉鎖を余儀なくされる。石炭は「比較生産性」で石油に負けるのである。そして「環境負荷」も大きい。
徳永えり扮する早苗の父親は、あのトリビアの泉の高橋克実が演じたが「リストラ」にあい夕張へ旅立つ。このときの「労働組合」の方針が「雇用問題」で揺れる。
その点、岸部一徳は「企業家精神」に満ちていた。ハワイアンセンターの従業員はすべて炭住の人々であった。これは「地域振興」の「内生的条件」を考えるときの大きなポイントである。「内発的発展」を重視しないと「企業城下町」の悲劇を繰り返すからだ。こうなると「公共投資」では「有効需要」は生まれない。
アジア、アフリカの貧困が「モノカルチャー経済」からきていることを想起しよう。
映画の中盤、「PR」のためバスによるキャラバンツアーが行われる。「マーケティング」のためである。これがないと「新規需要」は生まれず、「消費者」の「購買意欲」は高まらない。
フラはハンドモーションで意を伝える。月、風、花、愛・・・。静ちゃんは、まどか先生からハワイの「技術移転」を学んだのだ。
そしてこの映画の脚本を書き、監督した李相日氏は次のように語っている。
「僕は朝鮮学校に通っていた時、学校では金日成万歳って言ってるのに、家に帰ってテレビをつけると全然価値観の違うニュースが流れていた。もう早く、このおかしな状況から抜け出したくて仕方なかったんだよ。紀美子ってのはそういう役」と。
そう、経済学の父アダム・スミスは『道徳感情論』を書いた倫理学の先生だったし、『資本論』を書いたカール・マルクスは「人間疎外」をその思考の原点においているのだ。
さあ皆さん、『フラガール』を見て、旭川大学で経済学を学ぼう!
2006.10.5記 旭川大学・旭川大学女子短期大学部 学長 山内亮史
2008年01月08日 連載コラム [clm]


