コラム No.016 2008年度卒業生に愛をこめて~part.Ⅱ
いまは春、いまこの憂い
-未完の肖像に寄す-
<白き冬かく愛せしにいまは春いまこの憂い
耐えがたきかな-アンナ・アフマートワ>
私の同時代を生きてきた友人のロシア文学者にして詩人の工藤正広さんが、すごい仕事を出版した。
それは、ソ連時代のロシア詩人アンナ・アフマートワの詩を日本の短歌の形で訳詩するというものである。
言葉というものの喚起力を知り尽くした者で、しかも未だその限りなき荒野を歩き続けねばならぬ徒労とも希望ともつかぬ己れの宿業をつぶやきながらの詩人(うたびと)の詩魂がなせる仕事である。
その中から巻頭の一首をいまこの春、この旭川大学の、この生涯学習クラスを卒業してゆく皆さんに贈る気になったのは多分に私の感傷である。
夜6時10分から始まる授業に食事もとらずに駆け込む日々。
食事をとると眠気がくるといけないという・・・。
未だ夏の陽だまりの明るさもあれば真っ暗な、それこそ白き冬の日もあった。
出来るだけ一人一人の物語に耳を傾け、その琴線に少しでも触れる講義を心掛けたいと思いつつ期待に応えられなかったという想いを他の教員と私は共有する。
やはり互いに旅人であろう。旅とはそれぞれが己の信ずる自分に出会うためにするものであり、同時に中島みゆきがいうように「人間好きになりたいために旅を続け」てゆくものである。
ここにきて私は、アンナ・アフマトーワと工藤正広の合作といってよいこの白き冬の詩に心ひかれる。
白き冬とは、切実な人間関係をくぐるということであり、自分と向き合う孤独の季節であろう。その冬を愛さずに春はない。
でも、この憂い、満ち足りた春は彼方であろうか。成熟の代償の憂い。ごきげんよう。
2009年04月23日 連載コラム [clm]

